マーケティングの現場で繰り返し議論されるテーマに、「認知を重視すべきか、それとも獲得を優先すべきか」という問いがあると思います。これ、多くの会社で「あるある」な気がします。「マス系の施策をウェブ系の施策で対立」みたいな感じだったり、組織的に、「予算をどっちが多くとるか?」みたいな議論で、本当にこれややこしいし難しいテーマだったりするのですが、「認知」と「獲得」の違いを整理しながら、自分なりの考えをまとめてみたいと思います。
なお
- 広告予算は「認知系」と「獲得系」のどちらに投下が正義?
なんて、その問い自体がおかしいじゃん!って言われると思うのですが、現場だと結構、こういう問いが頻繁に起きてるのですよね。なので、私も問い自体がおかしいと思っていますw
「認知系」と「獲得系」、それぞれの役割と機能
あらためて、両者の役割を定義してみましょう。
■ 認知系
「認知施策」とは、サービスやブランドの存在をユーザーに知ってもらうこと、興味関心を喚起することを目的とします。たとえば、テレビCMや交通広告、タクシー広告、YouTube広告などが該当します。認知とは、まだそのサービスを知らない潜在層に向けて、「知ってもらう」「思い出してもらう」「好感を抱いてもらう」などの心理変容を促すアプローチです。出てる感はあるのだけど、「効果や評価が測定しずらい」という特徴があります。
■ 獲得系
「獲得施策」は、具体的なユーザー行動を引き出すことを目的とします。会員登録、商品トライアル、メールアドレス獲得、アフィリエーと等、行動ベースでの成果が重視されます。Web広告の多くはこの「獲得」をKPIに据え、「CPA(Cost Per Acquisition)」という明快な指標で成果が可視化されます。成果はとても測定しやすいのです。売り上げ直結型だとそれは良いのですが、「獲得はできたのだけど、そもそもその事業へのインパクトってどうなの?」という問いが残ったりします
なお、**「認知も、最終的には獲得につながらないといけない」**ので、最終的には獲得という行為は必要です。が、認知や利用の情勢なく、いきなり獲得を狙うという行為をここでは獲得系としたいと思います。
(よく考えてみると、認知は認知するのはユーザー側で、獲得は獲得するのが、企業側の言葉であるので、そもそも対比することができない言葉たちではありますね)
獲得は短期的成果、認知は長期的価値?
獲得施策はとにかく数字が見えやすい。1リードいくら、1申込いくらというように、ダイレクトに費用対効果が測定できるため、経営層からの理解や評価を得やすい側面があります。なので、気が付くと、認知系の予算が削られて、獲得系の施策ばかりということになったりします(これでマス系の代理店の方は結構悲しい思いをしてるように思います)
確かに、認知施策は成果が「見えにくい」ものです。例えば、「ブランド好感度が上がった」ことは定量的に把握しづらく、「じゃあ売上に直結してるのか?」という問いに答えづらい面があります。
しかし、ここには大きな落とし穴があるように思います。
CPA至上主義のリスク─「安く取れる獲得」は本当に意味ある?
獲得の成功って、本当に“意味のある獲得”なのか?という点です。
たとえば、「CPA⚫︎⚫︎⚫︎円でユーザーが獲得できた!」と喜んでも、3ヶ月後にはそのユーザーがまったく使っていなかったというケースは往々にしてあります。いわゆる「質の低い獲得」です。これでは「数字のための数字」になり、本質的な成長にはつながりません。
短期的な獲得にばかり目を向けていると、将来的にはサービスの利用定着率やLTV(顧客生涯価値)に悪影響を与える可能性すらあります。特にSaaSや定期購入型のサービスでは、初回獲得よりも継続利用が重要です。
認知施策の限界──「話題になったけど、売れない」のジレンマ
一方で、認知施策にも問題はあります。たとえば、SNSで話題になってフォロワーが急増しても、実際のサービス利用にはまったくつながらないということもあります。
「サービスの知名度が上がった。でも全然利用されていない。」
こうした状況では、「誰に」「何を」伝えたか、というターゲティングやメッセージ設計に課題がある可能性があります。また、認知から獲得につながるまでの導線が設計されていないというケースも少なくありません。
「今、何をするべきか?」を決めるフレーム──フェーズ思考
このように、認知にも獲得にも一長一短がある以上、「今どちらを重視すべきか?」を見極めるには、自社サービスがどのフェーズにあるかを明確にする必要があるんだと思っています。
例えばですが。
フェーズ | 重視すべき施策 |
---|---|
導入期(0→1) | 認知・トライアル獲得 |
成長期(1→10) | 認知×獲得のハイブリッド |
拡大期(10→100) | ブランド強化・リテンション施策 |
成熟期(再成長を目指す) | リブランディング・体験価値設計 |
とかです。まだ知られていない新サービスであれば、認知の強化と同時に「使ってもらう」導線をしっかり作る必要があります。逆に、既存ユーザーがある程度いるサービスなら、LTV向上のためのリテンション強化が重要です。もう既存ユーザーにしっかり使ってもらうことが重要なのに、いつも新規ユーザーを獲得してる、そんなサービスは実は結構多いのではないでしょうか?
もちろん、導入期だから、認知施策に回す予算はない。だから、ウェブでの獲得をまず行って、サービスができる体制をつくる」ということを目的とした施策をするとかなら、それは良いと思うのです。それぞれのフェイズで何を行うか?ということも、センスの発揮どころだと思いますしね。
これは、認知とか獲得といった話とは別で、「tiktokに全フリして、そこでの話題性を元にして、事業を拡大してく」みたいなオプションもあると思うのです。これって、認知とか獲得とかはまた別のテーマなので(結果的にリーズナブルな獲得ができた、とかはあるとは思いますが、それは広告予算の使い方とは別の話ですしね)
認知も獲得も「広告以外の選択肢」がある
なお、多くの場合、「認知=TVCM」「獲得=Web広告」という構図で語られがちです。認知にも獲得にも、広告以外の方法が数多く存在します。
- 認知強化:オウンドメディア運営、PR記事、業界登壇、SNS連携、リファラルマーケティング
- 獲得強化:ウェビナー開催、無料体験キャンペーン、メールマーケティング、LINE配信
広告は「外部から買ってくる施策」であるのに対し、こうした手法は「自社で作り上げる施策」と言えるでしょう。外食と自炊の違いに似ています。
- 広告:外食(すぐ出てくるがコスト高)
- 自社施策:自炊(手間はかかるが資産化できる)
「認知vs獲得」ではなく「自社に合った成長戦略」を
ここまで述べたように、認知と獲得は一方が優れているわけではありません。サービスのフェーズ、リソース、目標によって、注力すべき施策は変わります。
本当に重要なのは、「外から何を買ってくるか」ではなく、「自分たちがどのように価値を創出するか」を考えること。その前提に立ち、バランスよく戦略を設計することが、マーケティングにおいてもっとも本質的な取り組みではないでしょうか。
「広告に頼るのではなく、自分たちで価値を育てることが、大変だけど、効率的な成長戦略
認知と獲得、それぞれの意義を理解したうえで、自社にとって最適な施策を設計していきましょう。未来の成果は、今日の“地味な仕込み”から始まっているのかもしれないです。そして、こうした他社にまねされずらい方法こそが、持続可能な成長をするのだと思います。
なので、獲得か認知か?という問いって、予算の使い方の話であって、もっと前段で考えないといけないテーマ結構あるんじゃないかな?というのが私が思うことでした。広告予算って、とても大事なリソースなのですが、このテーマを議論する前に、実はいろいろ議論することあるよね、と思っております。
この記事を書いたのは
- 鈴木 康孝
- シックスワン株式会社。マーケティング&プロモーション領域担当。クリエイティブとかアイデアとか好き。尊敬する人、村上春樹さんと永井均先生と佐藤雅彦先生。今年の目標は、プログラムと英語をちゃんとやること。サウナと交互浴が大好き。
投稿した記事
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