「交通広告」は再評価されてもよいのでは?論

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電車内の風景

言うまでもないことだが、今、電車に乗ると、ほとんどの人がスマホを見ている。スマホ画面に集中している。座っている人も立っている人もスマホを見ている。スマホで見ているものは、ニュースメディアもあれば、キンドルもあり、ポケポケしている人もいる。ウマ娘もまだいる。ユーチューブやティックトックも多い。とにかくみんなスマホを見ている。たまに本を読んでいる人もいるが、ごくごく少数だ。顔を上げている人はほとんどいない。

そんな中だから、「電車内の広告なんて、もう誰も見ていない」という声もよく耳にする。デジタル優位が叫ばれる今、テレビのようなリーチを持たない交通メディアに、果たして価値は残っているのだろうか? そんな声も多い。でも、私は全然そうは思わない。むしろ今、交通広告はとても価値を持つメディアだと考えている。

私が仕事で初めてオフラインで広告を実施したのは、交通広告だった。それまではオンライン中心の展開だったが、あるとき限界を感じ、「広告を新しい場所で行おう」という議論が社内で起きたタイミングで、JR企画にいた大学時代の友人に相談した。とても優秀な人物だ。彼にいろいろと相談に乗ってもらった。

彼は交通広告を“平面”ではなく、“空間”として捉えていて、「その空間の中で、どう理想的な体験をつくるか?」という視点を持っていた。その考え方には深く影響を受け、今でもとても感謝している。

枯れたメディアにある優位性

「枯れたメディアほど、有効に使える」と思っている。DMと並び、交通広告は今も過少評価されていると思う。だからこそ交通広告の利用価値は高いと思う。年間プランニングの観点から言えば、真っ先に押さえるべきは交通広告ではないか、とすら思う。なぜなら、一度枠が埋まってしまえば、もう買いたくても買えないからだ。限定された場所を占めることはとても重要なはずだ。

ところで、私は、仕事柄もう20年以上、電車に乗ったら車両の端から端まで広告をチェックするという生活をしている。電車内広告は基本的に、各車両の同じ位置に同じ広告が掲出されている。1車両を見渡せば、その電車内の広告はほぼすべて把握できる構造になっている。

交通広告の変化もまた面白い。たとえば今、日本の電車内広告で多く見かけるのは、「アルコール・人材・英語・脱毛」といったカテゴリだ。交通広告の主なターゲットはビジネスパーソン。彼らは日々転職を考え、英語を学び、脱毛を検討し、夜にはアルコールを飲んで寝る。こういうビジネスマン像が浮かんでくるのだが……これは、面白い構図だ。本当なのかな? とも思うが、まあ、実際そういう傾向はあるのだろう。

交通広告の強み

ちなみに、私が考える交通広告の最大の強みは、「業界関係なく、専有面積が平等である」という点にある。リアルの広告枠はそもそも数が限られている。テレビのように莫大な予算でインプレッションを稼ぐのとは異なり、交通広告では“ある面”を一度押さえてしまえば、それがソニーであろうと、英会話教室であろうと、アイスクリームメーカーであろうと、誰であっても同じ面積・同じ視認性を得られる。

これは、テレビやスマホのような“インプレッション重視”の世界とは異なる。「不動産」に近い。“場所”を確保すること自体が、認知を確実に得る手段になるのだ。だからこそ私は、「まずは交通広告で“面”を取る」ことが大事だと思う。

そのうえで、スマホ広告などを使って補完するというアプローチが、移動中の生活者に向けた認知形成には極めて有効だと考えている。さらに交通広告には、「フリークエンシーのコントロールがある程度可能である」という利点もある。電車通勤は毎日必ずとは限らないが、月単位で掲出すれば、接触頻度をある程度設計できる。1ヵ月間のうち数回見せるという接触設計は、現実的に十分可能だ。

「物体としての広告」の強さ

交通広告の魅力は、BtoC向けだけでなく、BtoB文脈にも活きる。たとえば、「丸ノ内線で広告出してます」という一言だけで、クライアントとの信頼形成につながることもある。これはテレビCMのような偶発的接触とは異なり、「その車両に乗れば、必ず1枚は広告がある」という確実性による効果だ。

そういう意味では、交通広告はデジタルサイネージよりも、物体として存在する紙の方が私は効果的だと思う(ステッカーでもよい)。交通広告メディア側の事情でデジタル化は進んでいるが、別にそこに乗らなくて良いと思う。その場所で100%の露出を誇る紙やステッカーといった物理メディアの優位性を私は推したい。

今の時代、ほとんどの人がスマホを見ている。しかしだからこそ、交通広告のような「限定された物理メディア」は、むしろその価値を高めていると考える。広告枠の奪い合いが起きている今、こうした交通広告を年間で押さえることは、非常に戦略的で、効果的な選択だと、今だからこそ思うのだが……どうかな?

この記事を書いたのは

鈴木 康孝
シックスワン株式会社。マーケティング&プロモーション領域担当。クリエイティブとかアイデアとか好き。尊敬する人、村上春樹さんと永井均先生と佐藤雅彦先生。今年の目標は、プログラムと英語をちゃんとやること。サウナと交互浴が大好き。
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