「海外のHRやHRテックの情報って意外と入ってこない」って事ありませんか?
そこで、今後、シックスワンでは、海外のHRテック企業のレポートを行なっていこうと考えております。不定期にはなりますが、よろしくお願いいたします!さて、今回は、統合HRソリューションを提供するWorkdayをリサーチしました。日本企業でも、スタートアップ等で、こちらのサービスを利用してる企業を時々見かけますが、どのような企業・サービスなのでしょうか?
調査&レポートは、Orange Global Consultancyの米山怜子さんにご協力いただきました。
調査概要
- 成長経緯
- 製品の特徴
- 財務状況
- ビジネスモデルなどに注力して調査する。
歴史
2005年 | ソフトウェア業界で既に長年の経験を持つAneelBhusriとDaveDuffieldの2人でスタートアップ企業として、カリフォルニア州プレザントンで設立。 |
2006年 | 最初の製品であるHCM(人財資本管理)の一般発売を発表 |
2009年 | 46ヵ国100社への提供を達成 |
2012年10月 | ニューヨーク証券取引所で取引を開始。公開後の株は83%急騰 |
2015月 | 10周年を迎え、世界に700社を超える顧客規模を達成。自社従業員は3700名を超える |
2023年現在 | フォーチュン500企業の50%、グローバル2000企業の25%を含む、世界中の1万を超える企業に製品提供している |
また、同社の成長の特徴として多くのM&Aを重ねている。その軌跡は2023年9月に行われた財務分析デーのプレゼンテーション[2]のP101にも掲載されているので参照のこと。
提供製品・サービス
Workdayは、人財資本管理(HCM)から人財資源管理(HRM)、従業員エクスペリエンス、従業員管理、財務管理、そして分析とレポートなど、包括的なHR機能を提供するクラウドベースのエンタープライズソフトウェア。採用のリード獲得から従業員トレーニング、満足度の維持、オフボーディングまで、従業員のライフサイクル全体を網羅する多くの機能を1つのソリューションに詰め込んでいる。
以下はその主要なソリューションの概略である。
人事管理(HRM)、人財資本管理(HCM)
Workday Recruitingは、企業が求人情報の掲載、候補者の追跡、面接のスケジュール機能などの直観的な採用管理ツールを活用できる。Workdayの人事管理Suiteでは、従業員の管理、育成、報酬を改善するためのツールが含まれている。また、休暇申請、スケジュール設定、残業計算など、企業が従業員の時間と勤怠を管理できるように構築された、直感的な時間管理も可能。これにより主要な関係者が従事する時間情報にアクセスし、リアルタイムの勤怠状況を可視化し、勤怠と労働時間の詳細を示す包括的なレポートの作成が可能。これはチーム全体の効率を最適化するのに大いに役立つ。
タレントマネジメント(従業員管理、従業員エクスピリエンス)
従業員エクスピリエンスにより、企業は優秀な人材を育成および維持することができ、前向きな労働文化を促進し、全体的な従業員の満足度を向上させることができる。Workday Learningはクラウドベースの学習管理システム(LMS)であり、コンテンツの作成、配信、従業員のトレーニングと能力開発の追跡などの機能を提供し、人事マネージャーや従業員が、関連コンテンツに簡単にアクセスすることを促す。これにより、従業員エンゲージメントの向上、生産性の向上、離職率の低下を達成する。
財務、給与管理
Workday Financial Managementは、企業が会計、調達、収益管理、財務報告プロセスを管理し、すべての管理プロセスを1つのソリューションに統合できる機能的な財務管理アプリケーション。適応性のあるクラウドベースのソリューションで最新の管理機能を提供し、トランザクション処理、多次元レポート、統合、計画、コンプライアンスをサポートすることにより、財務プロセスの合理化を支援する。給与アプリケーションは、給与計算、税金管理、コンプライアンスレポートなどの機能を含め、給与計算を合理化する。
データ分析(ダッシュボードレポート)
Workdayの統合HRシステムを利用することで、企業は貴重なデータと洞察を収集し、情報に基づいた意思決定を行うことができる。 堅牢な検索分析により、企業が人事プロセスを最適化し、従業員の傾向を理解し、改善の機会を特定できるように促す。
また、Workdayの高度な分析機能を使用すると、企業は中核となるビジネスデータにアクセスして分析し、傾向とパターンを特定して、ユーザーがより多くの情報に基づいた意思決定を行えるような考察を得ることができる。また、継続的な学習のためのトレーニングコースと教育資料を利用して、企業(およびそのWorkdayユーザー)は、特定のニーズに合わせたレポートを作成およびカスタマイズし、機械学習機能を活用して、新たな成長の機会を迅速かつ効率的に特定できる。
これらの製品利用の結果、統合されたHRソリューションWorkdayの導入企業は、給与、福利厚生、人事から採用、オンボーディング、パフォーマンス管理、給与計算、福利厚生管理、トレーニングに至るまでのすべてを一元管理することができ、生産性の向上、企業データへのより深い洞察が得られ、従業員エンゲージメントの向上、コストの削減、人事プロセスの合理化を実現することができる。
顧客ユーザー
2023年9月に行われた財務分析デーのプレゼンテーション[3]によると、顧客はフォーチュン500企業の50%、グローバル2000企業の25%を含んでおり、世界中の1万を超える企業や組織がWorkdayを利用している。
Workdayのソリューションは、グローバルで複数の拠点を持つ中規模から大規模の企業向けに設計されたオールインワンパッケージとして最適だとされている。ただし、同時に1万をを超える当社の顧客のうち75%以上の従業員は3,500人未満であることも同社HP[4]で公表しており、あらゆる規模の企業に、適応性と迅速かつシンプルな導入を提供して早くROIを向上させると主張する。
製品の特長
AIとML(機械学習)が組み込まれたシステム
同社HPの製品の特長[5]によると、Workdayはシステムの中核にAIを組み込んでいることが特出しているという。分散型の従来のERPシステムとは異なり、WorkdayはAIが組み込まれた最高クラスの財務および人事管理システムを提供しているため、企業は的確かつ速やかな意思決定が行え、ビジネスや財務のオペレーションを推進し、人財のパフォーマンスを最大限に引き出すことができるという。また機械が学習しユーザー企業に合った提案をするため、あらゆる規模の組織が、常に変化する環境にすばやく適応することができるという。
拡張・柔軟性に優れたオープンプラットフォームでプロセス進化や微調整が可能
さらにWorkdayは拡張性と柔軟性に優れたオープンなプラットフォームであるため、必要に応じて組織の適応力を強化できるという。システムに最新のイノベーションが自動的に追加されるため、財務、人事、IT のどの部門でも常に最新の変化に備えることができる。
同様のコメントとして、WorkdayユーザーFrias氏のLinkedInへの寄稿[6]によれば、Workdayの強みは、さまざまな条件に基づいてフォーム、通知、ルーティング、承認、アンケート、レポート、ポップアップ、画面を実行するビジネスプロセスを構成出来ることだと言う。これに技術的なプログラミングは必要なく、ビジネスアナリストやHRスペシャリストによって、簡単に実行出来ることも特徴だ。
たとえばある会社が新しい人事プロセスを立ち上げているとする。全員がTeams会議に集まり、分岐とルーティング、あらゆる種類のルールと通知を含む非常に複雑なプロセスを考え出すとする。これをWorkdayで設定してオンにすると、関係者全員がそのプロセスに関与していく。
ただ、一度決められたプロセスは状況によっては「受信するメールが多すぎる」「承認が多すぎるためプロセスに時間がかかりすぎる」など、変更が必要も多々場合もある。これもWorkdayで変更し、プロセスが改善されるごとにパフォーマンスは高くなる。これが最終的に合理化され「無駄のない」プロセスになるまで、Workdayはプロセスを微調整して完成させ続けるという。
クラウド対応によるアップデートと高い顧客満足度
Workdayはクラウド対応のため、従来のオンプレミスERPシステムに伴う時間と費用のかかるアップグレードや制限から解放され、グローバル従業員が在宅勤務でどこからでも柔軟なソリューションに接続できる。もちろんスマホからのアクセスも可能だ。
ニューヨーク州のブランディングエージェンシーSoocialの分析記事[7]によると、Workdayはシステムの安全性とスムーズな動作を維持するために2年ごとにメジャーアップデートがリリースされており、法規制へのコンプライアンスを維持することでセキュリティとプライバシーを強化しているという。
また、同社HPでは、同製品は業界最高レベルの顧客満足度である97%を達成していると謳っている。
ビジネスモデル
Workdayのビジネスモデルは、サブスクリプションサービスとプロフェッショナルサービスから収益を得ている。サブスクリプションサービスの収益は主に、顧客がWorkdayのクラウドアプリケーションにアクセスできる月額料金で構成されており、これには関連する顧客サポートが含まれる。
一方プロフェッショナルサービスの収益には、Workday 製品とレポートの実装と、カスタマイズに関連するコンサルティングサービスの料金(展開、最適化、トレーニングなど)が該当する。
Forbes記事[8]などによると、同社は製品の価格を公開しておらず、見積は企業の問い合わせによってカスタマイズされる。また、Webサイトによると複数のプランのオプションは存在しない模様である。その代わり、企業はオールインワンのパッケージを利用する必要があるようである。
次項の財務状況でも把握できるのは、サブスクリプションサービスは売り上げの約9割を占めていることである。サブスクリプションサービスの収益は、主に顧客数、各顧客の従業員数、各顧客がサブスクしている特定のアプリケーション数、およびアプリケーション価格という要素によって変動しており、グラフで見られるように主要素として前年比20%越えで増加している。
財務状況
最新の年次コーポレートレポート[9]では、以下の結果を発表している。
- 2023年度総収益は62億2,000万ドル、前年比21.0%増
- サブスクリプション収益は55億7,000万ドル、前年比22.5%増
- 営業キャッシュフローは16億6,000万ドル、前年比0.4%増。
特に目立つセグメントの詳細に関しては、以下のコメントを示している。
- 継続的な注力として、小売業界での勢いが増している。Fortune 500社に含まれる小売業の50%以上がWorkdayを選択し、新たに導入されたAIおよびMLベースの需要予測の恩恵を受けて成果を上げている。小売業における精度と、コスト効率の向上に役立っていることが見受けられる。
- 注力としてAIとMLのイノベーションを促進するために、Workday Venturesファンドを2億5,000万ドル拡張すると発表。
これらの業績に関し、共同CEOのBhusri氏は次のように述べている。
「当社は、引き続き好調な四半期で会計年度を終えた。これにより、より多くの企業が、従業員と財務の管理を支援するためにWorkdayを選択し続ける中、当社の価値提案がさらに強化された。」
さらに共同CEOのEschenbach氏も好調な業績を受けて
「予測不能な環境にもかかわらず、プラットフォームの中核に人工知能と機械学習を組み込む独自のアプローチと素晴らしい従業員のおかげで、当社は1万社を超える顧客の未来の働き方を推進する、有利な立場を維持している。」とコメントしている。
さらに同氏はWorkdayの今後に関し、
「当社には2024会計年度に向けて明確な戦略がある。世界中の大企業と中堅企業の両方での地位を獲得し続けており、新規の金融およびHR顧客の獲得機会も、大きく開かれている。」と述べている。
まとめ
Workdayは2005年の創設後、多くのM&Aを繰り返し、今日フォーチュン500企業の50%、グローバル2000企業の25%を含む、世界中の1万を超える企業に製品提供する企業へ成長してきた。直近で2023年度の総収益は62.2億ドルであり、前年比で21%増加している。
統合されたHRソリューションであるWorkdayは、導入企業に給与、福利厚生、人事から採用、オンボーディング、パフォーマンス管理、給与計算、福利厚生管理、トレーニングに至るまでのすべてを一元管理を提供する。その結果、導入企業は生産性を向上させ、データへのより深い洞察が得られ、従業員エンゲージメントの向上、コストの削減、人事プロセスの合理化までも実現することができる。
その製品の特長は、AIと機械学習を組み込んだクラウドベースで提供されることにより、VUCAな環境でもすばやく適応することができ、あらゆる規模の組織に適した洞察や提案が得られる点である。さらに拡張・柔軟性に優れたオープンプラットフォームにより、プロセス進化やその微調整が可能な点が非常に実用的であるという。
ビジネスモデルの9割がサブスクリプションサービスからの収益であり、自社で公表している顧客満足度97%という数値を合わせると、リテンションが高く継続的な成長が見込まれる企業だと言える。
[1] https://www.workday.com/en-gb/company/about-workday/our-story.html
[2] https://www.workday.com/content/dam/web/en-us/documents/investor/workday-2023-financial-analyst-day.pdf P45
[3] https://www.workday.com/content/dam/web/en-us/documents/investor/workday-2023-financial-analyst-day.pdf P45
[4] https://www.workday.com/en-us/solutions/organization-size/medium-enterprise/overview.html
[5] https://www.workday.com/ja-jp/why-workday/why-different.html
[6] https://www.linkedin.com/pulse/2-12-years-using-workday-hr-system-aaron-frias-sphr/
[7]
[8] https://www.forbes.com/advisor/business/software/workday-vs-adp/
[9] https://newsroom.workday.com/2023-02-27-Workday-Announces-Fiscal-2023-Fourth-Quarter-and-Full-Year-Financial-Results
[10] https://www.statista.com/statistics/1114324/revenue-of-workday-by-segme
この記事を書いたのは
- 米山 怜子
- オレンジコンサルティング代表、持続可能な経営や社会を目指すリサーチコンサルタント。オランダMBA卒、企業向け市場調査・戦略立案・統計分析やSDGs関連記事の執筆、経営者向けコーチング、経産省傘下中小機構国際化支援アドバイザーや日欧産業協力センター講師等を務めている。
https://www.orangeconsultancy.biz/
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